コニャック界に現る黒豹。優雅な”ミュコー“の香りに誘われて…

ブランデーの最高峰・コニャック。200社近くあるとも言われるコニャックメーカーの中で他社と一線を画する異彩を放つのが「ミュコー」です。
ミュコーの歴史は古く、創業のきっかけは1850年にオーガスト・クリストフとガスタベ・ミュコーの2人が当時のロシア皇帝の指示でコニャック供給のためにフランスへ出向したことでした。彼らは現在のプチ・シャンパーニュ地方への出向を繰り返す内に、遂にはコニャック専門の会社を立ち上げることを決め、1862年にミュコー社を立ち上げました。

コニャック市に住む著名人を株主にしたミュコー社は、世界中で開催された権威ある酒類コンペティションで高い評価を受け、創業当初から急速に成長。一気にコニャックのトップメーカーへと上り詰めたのです。そして現在では世界80カ国以上で販売されています。
長い歴史を持つミュコーですが、その味わいは「力」「優雅」「柔軟」の3つの要素で構成されています。すなわち「力」とはコニャックらしい芳醇な甘みとコクを、「優雅」は厳選された原料から造られた原酒が持ちうる華やかな香りを、「柔軟」とは滑らかな口当たりと長く続く余韻のことを表しているのです。
ちなみに、この3つの要素を表現するシンボルとして1993年から使用されているのがボトルにレリーフされている「豹」です。この独特のボトルデザイン自体も高い評価を受け、2度デザイン賞を獲得したこともあります。創業当初から高いレベルで維持されてきたミュコーの品質ですが、その秘訣はどこにあるのでしょうか。

まずは原酒の質です。コニャックの原料であるブドウの質にこだわることは当然ですが、その後2回の蒸留を経て得られた「オー・ド・ヴィー」（未熟成の原酒）についても非常に厳しい選別がなされ、合格になったものだけが樽に詰められて熟成に回されます。こうして詰められた原酒は、最短2年から長いものでは50年以上熟成を施されます。長い歴史を持つミュコーのセラー（熟成庫）には実に膨大な数の原酒が保管されています。
これら原酒の全てを管理し、ブレンドを行い、製品の最終的な味わいを決定しているのが「セラーマスター」です。コニャックは基本的に熟成年数の異なる様々な原酒をブレンドして製造されますが、数千樽以上に及ぶ原酒の個性を把握し、求める味わいをブレンドによって的確に再現するのは並大抵の能力で出来ることでは有りません。

現在セラーマスターを務める、アン・サルトー氏はこれまでミュコーの築いてきたスタイルを理解し、それをコニャックの味わいで表現するために専門的な知識と天才的なセンスを持ち合わせています。また、これまでの味わいを再現するだけでなく、「現代のミュコー」を彼女なりのセンスで描くことも求められています。このようにして、伝統的スタイルと現代的なセンスを融合することでミュコーは世界各国で楽しまれるコニャックブランドとして成長してきました。たった1本のコニャックに詰められたその思いや歴史も是非一緒にご堪能頂ければ幸いです。

ミュコー社外観。 歴史を感じさせる石造りの建物ながら、 どこかエキゾチックな雰囲気も持ち合わせる独特さ。

コニャックの原料となるブドウ。ミュコー社ではその華やかで複雑な味わいを生み出すため、グランドシャンパーニュとプティシャンパーニュ産のブドウを多く使用している。

セラー（熟成庫）。暗く湿度の高い熟成庫内でコニャックはゆっくりと熟成していく。セラー内には秘蔵の超高熟コニャックを保管する楽園（パラディ）も存在する。

2007年からセラーマスターを務めるアン・サルトー氏。
氏曰く「コニャックは動物に例えるなら、パンサー」とのこと。 氏は、若いうちはおとなしく、成長と共に力強さを獲得していくという過程や、環境や気温に合わせて柔軟に変化を見せることなどがコニャックとパンサーの共通点であると語る。非常にユニークかつ、「ミュコースタイル」が感じられる言葉だ。